大鳥池とタキタロウ伝説

山形県朝日村 朝日連峰の尾根にある大鳥池
九十九頭の竜神がこの湖の主であるといわれる。
古くは女人禁制の地であり、里の者が近寄ると雨が降るという言い伝えもある。
幻の魚「タキタロウ」もまた、大鳥池の謎のひとつ。
「池中に怪魚棲み、その大なる五尺、口は兎に似て、味は鯨の如し」と伝えられてきた。
  タキタロウ
タキタロウ
タキタロウ
タキタロウ
 
 
大鳥池
大鳥池は、山形県内で一番大きく、池にはイワナや、ヒメマス、伝説の巨大魚タキタロウが群生しており、釣りの名所となっている。

古くは大鳥池を藤の池、または深谷現の池とよばれていたこともあった。
以東岳からみる大鳥池の形は、熊の毛皮を広げた形とよく似ているといわれるが以前は「座っている土偶のような形をした池」と形容されていたこともあった。大鳥池は以東岳(1,771m)を南に、三角峠(1,518m)と化穴山(1,506m)を相対させ、それぞれ切り立つ三方の山々と、ブナの原生林に囲まれた高山湖(966m)で、静寂を湛えている。

大鳥池の成因について山形高等学校(現山形大学)教授、故 安斉徹氏によれば大規模な山崩れによる堰止湖とされ、以前の断層陥没説を退けられておるように、何かしら謎めいた感が深い湖である。
標高966m、湖面の長経・南北約1km、深さ68m、湖岸線延長3.2km、湖表面積0.4km2と決して大きい湖ではないが我国では珍しい花崗岩地にある湖として、陸水学上貴重な存在である。

大鳥池は大昔から神秘の池として伝えられ女人禁制の域であった。特に女人の入山を固く禁じ、女人が大鳥池方面へ入山すると天候の急変が起こり災害をもたらすなどの伝えがあった。このように人知れず原始の地にひっそりとたたずむ湖に大正15年、故 安斉徹氏によってはじめて調査が行われた。昭和9年には、潅漑用水利用のために大鳥池排水口にコンクリート造りの制水門の建設(3mのかさあげ)がおこなわれ現登山道は、この工事のために作られたものである。

大鳥池に生息する魚類は、イワナ・ヒメマス・タキタロウであったが、近年、漁業権が設定されてから、ヤマメ、カワマスが放流されている。ヒメマスは明治31年から大正3年にかけて故 関原、東田川郡々長らが数万匹放流したとされている。また、大鳥池の主は99頭を有する竜神とも、また巨大なタキタロウともいわれており、近くの三角池(みすま池)が主の棲だと伝えられてる。

伝説の怪魚「タキタロウ」
1982年(昭和57年)7月19日、朝日村の企画した「以東岳登山に参加しませんか」の一行(この中には、ガイド役として当時の旅館「朝日屋」館主も同行。※現在は息子が旅館を継いでいる)は、午前6時15分から30分までの間、以東岳直登尾根上より、タキタロウらしき巨大魚(複数)を目撃した。

湖面北西部に波立つクサビ形の魚群を発見し、双眼鏡でのぞいたところ、その魚群の波立ちの間に黒く丸い巨大魚の背面が水上に見えかくれするのが目撃されたのである。クサビ型の波立つ魚群の全体の大きさは30〜50m位であり、魚の大きさは波しぶきから考えて2〜3m前後と思われた。

背面の目視できた部分だけでも1mはあり、頭部、尾部を考えると2m前後はあると推定できる。クサビ型魚群波は、湖の北西部から時計と反対回りに移動し、西のクラの沖合を南下、直登尾根にはあまり近づかないで東へと向かった。さらに東沢沖合から反転、北上したが、安斉先生の地図で大鳥崎としてある東の山脚末端(東の鼻)沖から西へ向きを変えて減速、しばらくぐずぐずと右往左往する感じだったが、まもなく消滅した。

巨大魚はその間、少なくとも5〜6、多いときは7〜8尾の背が同時に水面上に上がり、絶えず見えかくれしていたので、全体数は判然としないが、10尾前後は行動していたと推定できる。当日の天候は高曇り、無風であり、湖面は油を流したようになめらかに静かであった。

これを受け、大鳥池調査団が結成され、詳しい調査が行われることとなり、目撃者の一人として当館前館主も調査団に加わった。初年度は、大鳥池に息む淡水魚の生息環境について調査、大鳥池の断面、つまり池の底がどうなっているか、また水深7m位まではイワナやヒメマスが息んでいて、水深30〜40m、水温4℃のところにタキタロウと思われる大型の魚影が確認できた。

2年目は、NHKと古野電気(株)の特別調査協力を得て、水中カメラを入れたり、新鋭の魚群探知機を導入して大がかりな調査を行った。この様子はNHK特集で全国に放映された。

大鳥池捕獲魚体No.1記録 3年目は、タキタロウの捕獲を中心にして調査を進めてきたが、10月27日、得体の知れない大物が一匹捕獲され、この魚が昔から伝わるタキタロウであるかどうかは議論のあるところであるが、大鳥池には巨大魚がいるという事実が確認できた。

専門家に鑑定を依頼、「アメマス系のニッコウイワナ」「オショロコマにちかいエゾイワナ」という鑑定結果を得た。アメマスは、陸封型と降海型に区分され、海へ降りないと40cm以上には生長できないといわれ、海へ降りなくても70cm以上にまで生長できるということは、海の役割を池が果たしていることになり、大鳥池の不思議の謎は一層深まった。この巨大魚は、朝日村の開発センターに展示してあるが、解剖の結果、イワナを3匹飲み込んでいた。

巨大魚は、魚を食う魚であることがわかったが、近年大鳥池のイワナは少なくなり、イワナが少なくなるとこの種の巨大魚も育たなくなる。大鳥池の生態系を守るため、一部心のない人達の乱獲を規制し、いつ誰が行っても釣りが楽しめるようにしていきたいものである。

これらの調査結果をまとめた報告書によると、タキタロウは、体長7尺(約2m)、瀧太郎、竹太郎ともしるされてきた。大鳥池に多数棲息することが知られている。

タキタロウの名称の由来としては、瀧太郎という人が発見したという説と、瀧の主に発した名称とする説などがある。
村人の間では、口は三つ口で兎に似ているとか、尾びれが大きくてまるで農作業に使用する「ミ」のようであったとか、下あごがめくれ上がっている、体表をおおうアブラが厚くて焼くとそれが燃えるだけで、肉はうまく焼けないなどという話もある。尾びれの形は三味線バチのように末端が平らで、切り込みがないし、肉は赤味、美味であり、体の表面はぬめり、茶褐色でナメコ色だと言う。

学問的な分類では、既知のイワナ、アメマス(エゾイワナ)、ヒメマス、イトウなどが巨大化したものとする説もあるが、これらには入らない別種の魚ということを主張する地元の方が多い。他の魚の名を冠することはできず、あくまでもタキタロウとして分類すべき別種の魚類と考えているのである。

現在までに捕獲されているタキタロウと思われる魚は、40cmから160cm、1、2例は、その巨魚と同格と思われるが、他はイワナの巨大化の例である可能性もある。1983年10月21日午後3時頃、YBC(山形放送)取材班によって、テレビ画像として記録された。

今回の調査では、タキタロウが実物として確認はされなかったが、大鳥部落には伝説として、証言者には現実のものとして、釣り人にはロマンとして存在することには変わりはない。たとえ実在する魚として解明されたからとしても、大鳥池の主はタキタロウであり、神秘の池であることに何も変わりはない。

自然破壊や環境汚染がすすむなかで、これが本当の幻となり、釣り人のロマンが破れることのないように、必要があれば保護・増殖をはかっていく当初の目的どおり、今後とも関係機関の協力を得ながら調査を継続していきたい。と「大鳥池調査報告書」(昭和58年12月 山形県朝日村企画課、大鳥池調査団)は結んでいる。


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